「大向う」って何?歌舞伎に不可欠な応援団体

「大向う」って何?歌舞伎に不可欠な応援団体

アイドルのコンサートに行くと
多くの人が、自分のお気に入りのメンバーに
決まった声援や掛け声をかけますよね。

実は、歌舞伎の世界にも同じように
観客が掛け声で演目を盛り上げる
「大向う」という文化
があります。

これがないと進まないという演目もあるほど
重要な歌舞伎文化なので、
知っていて損はありません!
是非、最後までご一読下さい。

そもそも「大向う」って何?

大向うという言葉には
2つの意味があります。
1つ目は、舞台から最も遠い客席のことで
2つ目は、常連のお客さんのことです。

そしてこの2つの意味から転じて
常連のお客さんが掛ける声を
大向うと言うようになりました。

大向うがカギになる演目

大向うは舞台を盛り上げるための
歌舞伎通からの掛け声のことですが、
演目の中には、この大向うありきで
進行する演目もある
んです。

中でも、絶対におさえておきたい
2つの演目を紹介します。

①再茲歌舞伎花轢(またここにかぶきのはなだし)

通称お祭りと呼ばれる
歌舞伎舞踊の演目です。

鳶頭が申酉の祭り(山王祭)で
酒に酔い、喧嘩や色恋の話をする
シンプルな内容です。
※申酉とは、東京にある
日枝神社(山王神社)のこと。


鳶頭が登場する舞台前半では
「待ってました!」という
大向うが掛かります。

これを受けて鳶頭が
「待っていたとはありがてぇ」
と答える舞台と大向うさんのやりとりは
この作品における見どころの1つと
言えるでしょう。

②梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)

通称石切梶原と言われるこの演目にも
有名な大向うが掛かります。


演目のクライマックスに
主人公である梶原 平三が、
石の手水鉢を剣で切るシーンがあります。

ここで「剣も剣、切り手も切り手」
というセリフに対して
絶妙なタイミングで「役者も役者!」
という大向うが掛かります。


もちろん、大向うさんたちと
舞台上の歌舞伎役者たちが打合せをして
演出しているわけではありません。

歌舞伎通である大向うさんが
しっかりと舞台の予習をして
間を理解した上で大向うを掛けるからこそ
何とも言えぬ一体感が生まれる
のです。

「間」は「魔」に通じる!?

さて、この大向うを掛けるタイミングは
とても難しいと言われています。

なぜなら、演目の内容を把握する
というのは大前提ですが
セリフとセリフの間合い
知っている必要があるからです。

万が一、掛け声と役者のセリフが
かぶってしまったら、
演目の雰囲気が壊れてしまいます。

このように、
歌舞伎において「間」は
重要な意味を持っているのです。

「間」の素晴らしさで観客を魅了した
六代目 尾上 菊五郎は「間は魔に通じる」
という言葉を残しています。


踊りの間というものに二種ある。

教えられる間と、教えられない間だ。

とりわけ大切なのは
教えられない間だけれど、
これは天性持って生まれてくるものだ。

教えて出来る間は
「間(あいだ)」という字を書く。
教えても出来ない間は
「魔」の字を書く。

私は教えて出来る方の間を教えるから、
それから先の教えようのない魔の方は、
自分の力で探り当てることが肝腎だ。


これは、彼の師である
九代目 市川 團十郎が菊五郎に
伝えた言葉で、今でも
歌舞伎の世界だけでなく
日本の伝統芸能において
大切にされている考え方
です。

劇場公認!5つの「大向うの会」

大向う(掛け声)を掛ける
大向うさんのほとんどは、
「大向うの会」に所属しています。

「大向うの会」の会員は、
木戸御免(きどごめん)といって、
料金を払わず劇場に入れる
許可証を手に入れることが出来ます。

東京には、寿会・弥生会・声友会
関西には、初音会
博多には、飛梅会があり、
入会するためには、
会員からのスカウトや審査に合格する
必要があるそうです。

大向うの会については
こちらの記事も参考になります!
歌舞伎 「○○屋!」合いの手を入れているのは誰?

まとめ

観客からの掛け声があることで
舞台や役者を盛り上げて、
会場全体の一体感を生みだすという
演劇の舞台は、世界でも珍しい
そうです。

初めての歌舞伎観劇では
是非、大向うさんによる掛け声も
楽しんでみて下さいね。